背景および対象範囲

フランスに本社を置くIDEMIA(アイデミア)は、セキュリティと識別ソリューションを提供する企業である。アイデミアは、顔認証・生体認証システムと決済セキュリティ技術を提供する世界有数の企業である。同社は2017年、オベルチュール・テクノロジーズとサフラン・アイデンティティ&セキュリティ(モルフォ)の合併により誕生した。

課題

アイデミアのアジア太平洋地域の財務業務は、合併後、2つのエンティティに属した分散化されたチームによって管理されていた。これらのチームは、HSBCを含む同地域の30の銀行で保有されるファンドを管理するために、それぞれ異なるシステムを利用していた。

統合されたシステムの欠如により、キャッシュ・バランスのコントロールが困難になり、資金運用が複雑になった。財務担当者は、それぞれの市場から手動で現金を集約しなければならず、また会社間の貸付からの利息も手動で追跡しなければならなかった。

さらに、アイデミアはモルフォの買収資金を調達するために借入を行ったことから、外部からの借入金と費用を削減するために、余剰資金を組織内でより有効に活用する必要があることを認識していた。このため、アイデミアは会社の財務部門を完全に統合し、できるだけ多くのプロセスを標準化し、自動化する必要性に迫られていた。

アイデミアの財務部門のディレクターであるPhilippe Berneur氏は、「アイデミアのアジア太平洋における広範なプレゼンス、そしてそこで多様な通貨が取り扱われていることから、財務業務の合理化は極めて重要な課題であった。信頼性が高く強固な環境で効率の向上を達成するためには必要であった。」と述べている。この改革の目的は、キャッシュ・ポジションの「見える化」を向上させ、アジア太平洋地域の業務においてより効率的な資金調達を実現することであった。

トランスフォーメーション

アイデミアは、銀行との一貫したリンクを提供する、拡張性のあるソリューションを必要としていた。HSBCと協議した上でアイデミアは、キリバ社のトレジャリー・マネジメント・システム (TMS)をグローバル・トレジャリー・マネジメント・プラットフォームとして実装した。これにより、アイデミアは、財務担当者がすべての口座のキャッシュをより効率的に管理できるようにするために必要な標準インターフェースを得ることができた。

その後、アイデミアはシンガポールの地域本社のヘッダー・アカウントとアジアの4つの主要市場のエンティティとの間で、双方向のゼロ・バランス・スウィープ(各口座の資金残高がすべてゼロになるように集中口座に移し替えること)を通じたキャッシュ・プールを設立することで、アジア太平洋地域の流動性管理を一元化した。これにより、アイデミアの余剰現金が自動的に連結され、よりタイムリーな資金調達決定が可能となった。

さらなる強化として、アイデミアは単一エンティティの多通貨ノーショナル・プーリング(MCNP)構造をキャッシュ・プールに重ね合わせ、集計された資金を名目上、選択通貨へ交換することを可能にした。アイデミアは、この名目上の残高から資金を引き出し、事業ニーズをサポートし、必要に応じて地域本社のバランスシートをデレバレッジする。物理的な資金移動の必要がなくなり、外為の交換や融資にかかる典型的なコストや労力が削減された。これにより、アイデミアは、事業ニーズを支えるために内部資金をより効率的に活用し、外部からの借入への依存を減らすことができた。

また、アイデミアはHSBCと協力し、グローバルなキャッシュ・ポジションを連結した形で閲覧することを可能にし、流動性管理のためのセルフ・ヘルプ・ツールを提供するHSBCのオンライン・サービスである「LMP(リクィディティ・マネジメント・ポータル)」を導入した。

HSBCのリクィディティ&インベストメント・プロダクツおよびインベストメント・プロダクツ、グローバル・リクィディティ&キャッシュ・マネジメント部のディレクターであるスコット・サムソンは、「LMPは、アイデミアがHSBCnetを通じてLMPにアクセスし、セントラルデジタル・プラットフォームを通じてリクイディティストラクチャーを直接閲覧・モニタリングすることを可能にする。ポータルの直感的なインターフェースにより、アイデミアは資金調達の意思決定を支援するために必要な残高の迅速な内訳をみることができる」と説明した。

HSBC のグローバル・リクィディティ&キャッシュ・マネジメント部の営業担当リージョナル・ヴァイス・プレジデントのカーメル・チュアは、「アイデミアがグローバルなTMSの実施を進めるなか、LMPは流動性の「見える化」とコントロールを提供する暫定的なソリューションとして不可欠であることが証明された。LMPは、財務業務の円滑な継続を支えることで、アイデミアの合併後の環境において極めて重要であった」と述べた。

成功

アイデミアは、分断された財務構造を最終的に一元化し、以下のことが可能となった

  • 標準化されたインターフェース上のすべての代替可能通貨の完全な「見える化」およびグローバルなTMSを通じた資金へのアクセス
  • 金利・為替取引のコストを削減する一方でキャッシュ・フローを改善
  • LMPを通じた自動追跡・報告機能により、タイムリーな情報を得ることで確度の高い資金調達の意思決定

Berneur氏はさらに、「HSBCと連携して設計されたデザインは、当社のニーズをよく満たし、過密なスケジュールのなか、当社が直面していた多数の障害にもかかわらず、プロジェクトの実施は成功した。当社の財務がいまや完全に機能しており、地域の財源や余剰資金のアップストリームを最大限に活用できることに満足している」と述べた。

前進を続ける

アイデミアとHSBCは、アジア太平洋地域の財務改革の成功を基盤に現在、流動性ソリューションをグローバルに展開している。欧州では、同様の資金集中構造が、現在、4つの主要な欧州市場からポンドとユーロで資金を集め、アイデミアの本拠地であるフランスのキャッシュ・プールに集中することで、アジア太平洋地域でみられた財政業務の効率化を図ることができた。

さらにアイデミアは、アジア太平洋地域のキャッシュ・プールから、欧州のキャッシュ・プールに資金を移し、フランスの本拠地における債務の返済にアジア太平洋地域の余剰資金を充てることで、さらにグローバルな資調達の効率化を達成した。

また、HSBCのグローバル・バンキング事業法人部/グローバル・リクィディティ&キャッシュ・マネジメント部でアジア太平洋地域統括営業共同責任者を務めるアイ・チェン・リムは、「アイデミアは、バイオメトリクスの世界的リーダーに成長するにつれ、そのビジネスの要求も高まっている。当社の拡張性のある資金調達構造と革新的なデジタル・ツールは、アジア、欧州におけるより強固な流動性管理を可能にすることで、アイデミアを合併から前進させた。まさに、このことは、顧客が大きな変化の時期を乗り切り、さらに強くなることを支える当社のコミットメントを示している」と述べた

 

最新Insightレポートに戻る