世界の中銀がデジタル通貨を開発

2 November 2020 James Pomeroy, Global Economist, HSBC

    新型コロナウイルスは、世界の現金離れを加速させた。現在、各中銀は我々の財布の中にある紙幣と硬貨のデジタル版の開発を検討している。スウェーデンと中国は、2021年中に中銀デジタル通貨(CBDC)を立ち上げる可能性がある。

     

    これらは仮想通貨やビデオゲームで使われているユニットではなく、米連邦準備理事会(FRB)、英イングランド銀行(BoE)、欧州中央銀行(ECB)、日銀を含む多くの中銀によって議論されている決済手段である。これらの中銀は、「中銀の中銀」と言われる国際決済銀行(BIS)とともに、CBDCの原則とその特徴を概説した。

     

    中銀は、紙幣が中銀の基本的な役割—普遍的に受け入れられ、アクセス可能な決済手段を提供すること—を達成しているかを疑問視している。

     

    最も単純なレベルでは、CBDCは中銀が発行する通貨であるが、デジタル形式でのみ発行される。

    それは、紙幣や硬貨と並んで機能することが可能だが、中銀に対する請求権であり、誰もが利用し、認める一種のデジタル決済を提供することができる。

     

    CBDCに関しては、多くの未解決の問題がある。商業銀行は仲介者として機能するのか、それとも企業や消費者が中銀に直接口座を持つことになるのか。取引の承認は、分散型台帳技術(DLT)を用いてネットワークによって行われる必要があるのか、それとも中銀が行うのか?所有権は個人と結びつき、取引は身分証明により認められるのか。デジタル通貨は、国内送金以外の国境を越えた支払いにも対処できるのか。

     

    まだコンセンサスはないが、世界的な実証試験は新たな国際基準を設定する可能性がある。中銀は、CBDCが金銭的・金融的な安定性を損なわず、明確な法的枠組みを持ち、イノベーションと効率性を促進するとともに利便性を有し、かつエンド・ユーザーにほとんど、あるいは何も費用がかからないことを確保することを望んでいる。小売支払コストは現在、経済のアウトプットの0.5%〜0.9%を吸収しているが、CBDC取引は摩擦がなく、コストがかからない可能性がある。

     

    この他の経済的なメリットもあり得る。世界全体では17億人が銀行口座を持っていないが、CBDCの口座なら携帯電話のウォレットに組み込むことができ、新興国市場における金融包摂を促進することができる。

     

    しかし、CBDCがどのように金融政策に影響を与えるかは、部分的には利息の支払いの有無にかかっている。もし、紙幣と同様、利息が付かないのであれば、現在、マイナス金利を検討している中銀にとっては問題となる。しかし、利息を支払うのであれば、金融政策のより広い経済への波及を促進するであろう。

     

    いずれにせよ、取引データは中銀や政府が自国の経済をリアルタイムで監視し、それによって財政政策や金融政策を適応させることを可能にするであろう。

     

    BISによると、中銀の10%が3年以内にCBDCを発行する可能性が高いとみており、6年以内ではその割合は20%となる。ウクライナ、韓国、アイスランド、タイでは実証試験が実施されており、カナダ、ブラジル、カンボジアでは提案の作成に取り組んでいる。バハマのカード・ベースの「サンド・ドル」はすでに2つの島で試験が運営されている。

     

    主要経済国では、スウェーデン中銀(リクスバンク)と中国人民銀行がCBDCの開発で先陣を切っており、2021年中に少なくとも1カ国からの提案が実現する可能性が高い。他の国は後れを取っているが、ひとたび世界中のどこかで実行可能なソリューションが見出されれば、採用率は速やかに上昇する可能性がある。

    2020年10月30日


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