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新しい形のデジタル通貨が成長に拍車をかける可能性
HSBCグループ・チーフ・エグゼクティブ ノエル・クイン
150年以上にわたり、HSBC（以下、「当社」といいます。）は金融イノベーションの最先端に立ち、常に顧客のために銀行業務をより簡単に、より良いものにする方法を模索してきました。
デジタル革命が進行する今日、当社は世界中の顧客との決済処理及び投資の円滑化に資する方法など運営の根本的な改善を図り続けています。
開発が進む銀行業のイノベーションの1つが、中銀デジタル通貨（CBDC）として知られる新しいデジタル通貨です。これらは中央銀行や政府当局が保証する法的通貨であり、仮想通貨や一部のステーブルコインのようなデジタル通貨と比較して安定度も透明性も高いため、関連するリスクの多くを回避することが可能となっています。すでに一部の国で発行されており、その他多くの主要な中央銀行は独自のCBDCを積極的に開発し、試験的に運用しています。
CBDCは、支払いや決済をより効率的かつ安価にすることで、さらなる経済成長に拍車をかける可能性があります。また、金融セクター全体でイノベーションを促進する可能性もあります。CBDC決済の即時性は、債券やその他の証券の発行・取引コストを低下させる公算が大きく、また、需要を喚起するために消費者に直接資金を移転する手段を提供することが可能となるため、財政・金融政策の目標を支援するものです。
すべてのイノベーションがそうであるように、潜在的なリスクを軽減する必要はあります。新製品とサービスが安全で、効率的かつ変革的であることを確保しなければなりません。例えば、中央銀行や政府当局は、CBDCが信用供給、市場活動、金融安定に与える影響を考慮する必要があると思われます。データのプライバシーと保護に対する顧客の期待に応える一方で、サイバー攻撃に耐えられるように設計し、金融犯罪リスクを軽減する必要があります。
CBDCに使用されるモデルはとても重要です。他の多くのステークホルダーと同様、当社はハイブリッド・モデル（中銀が発行し、商業銀行が決済サービスを提供し口座管理を行うため、二層構造モデルとも呼ばれています）がはるかに良い設計オプションであると考えています。このアプローチは、中央銀行が新たな口座管理インフラを整備する必要性を回避しながら、商業銀行が経済への貸出において重要な役割を果たし続けることが可能なため、現行金融システムにおいて最も良く機能するでしょう。
国際決済銀行（BIS）と主要中央銀行による最近の報告書では、この道筋に乗り出す際の指針となりうるいくつかの原則が提示されています。CBDCは通貨・金融の安定性を損なわないこと、柔軟かつ革新的な支払いエコシステムにおいて現金や他の貨幣と共存できること、金融システムにおけるより広範なイノベーションと効率性を促進すること、などがその例です。
統一性ではなく、相互運用性が重要になるでしょう。例えば、国境を越えた決済に関する主要20カ国・地域（G20）において既存のクロスボーダー決済の枠組みのなかで開発されたインフラ及びデータに関する共通基準は、CBDCが国際的に利用できることを確保し、エンドユーザーの利益を最大化するのに役立つと思われます。
CBDCはデジタル通貨の新しい形態の1つです。CBDCと仮想通貨やステーブルコインのような他のデジタル通貨との決定的な違いは、後者が私的貨幣の形態であることです。私的通貨そのものは新しいものではありません。市中銀行通貨（預金通貨）は私的に作られ、広く利用されています。しかし、市中銀行通貨は、中央銀行通貨に厳密に関連付けされることで規制されています。このことは、市中銀行通貨のシステミックな重要性を反映しています。
ステーブルコインや仮想通貨が市中銀行通貨と同じように信頼されることになれば、それらが生み出すリスクに見合った規制強化が必要になるでしょう。信頼できる安全な決済手段として、金融犯罪防止手段に対応し物価安定を図ることを支援する設計とすることが有用と思われます。
HSBCは、クロスボーダー決済や外国為替市場について深い経験を持つ世界最大級の金融機関の1つとして、今後もCBDCの議論と開発に関与していきます。当社はすでに、英国、フランス、カナダ、シンガポール、中国本土、香港、タイ、アラブ首長国連邦（UAE）など、多くの中央銀行と提携し、各中央銀行がどのようにCBDCを最も上手く機能させるかを共に検討しています。
銀行が新しい商品やサービスに常に求める高い安全性と効率性の基準をCBDCが満たすことができれば、それは金融セクターと実体経済に好ましい変化をもたらすでしょう。当社は、過去150年間行ってきたように、顧客がこの次の金融イノベーションの波の恩恵を受けることができるよう支援していきたいと考えております。
